印象に残った事例の分析(Significant Event Analysis:SEA)

内省・関わり
この記事は約6分で読めます。

臨床で事例や症例を通じて、医学的な検討という形で考える場はあるかもしれません。

一方、医療者はそのとき、

どう思ったか、どう感じたか

どうしたらよかったと思うか

のように、感情を含めて振り返ってみる機会はほとんどありません

このような振り返りを、系統的に行うのが、

Significant Event Analysis:SEA

です。

今回は、SEAについてご紹介します。

SEAとは

SEAとは、


重大な事例・症例に関わった医療者(特に医師)が自ら、あるいは同僚や医療チームを巻き込んで詳細に、かつ系統的に省察することで、今後の改善につなげていくための手法

です。

北部東京家庭医療学センターや王子生協病院でSEAが医師のプロフェッショナリズムの教育に利用されており、その手順は、

  1. significant eventの記述
  2. 最初に考えたこと、そのときの感情
  3. うまくいったこと
  4. うまくいかなかったこと
  5. こうしたらよかったと思うこと
  6. 次のアクションプラン、学びの計画


手順2に示されているように、SEAは日常のカンファレンスとは異なり、感情のレベルまで踏み込む点が特徴です。


学生の頃とは違い、同じ年齢や役職の方は少ないため、何よりも雰囲気作りが大切です。


学習者が率直な気持ちを発言しやすいように、


暖かく見守りような雰囲気作り


上司の方も、自分の経験や失敗談などを交えて参加します。


原則として、セッションを開始する前に、

「聞き役の人たちは、いきなり批判するのはやめて下さい。辛い感情に共感を示し、うまくできていたところは支持的にコメントすることで、盛り立てていきましょう」

とアドバイスするみたいです。

SEAの時のみではなく、普段から気軽に意見交換ができる人間関係を築いておくことが必要そうですね。

また、多職種で行う際は、お互いに遠慮してしまわないように充分な配慮が必要となります。

時には、感極まって涙を流されたりすることもあるそうです。

温かい雰囲気で、嬉しかったことや悲しかったこと、悩みや苦悩を一緒に考えていけたら、とても良い時間になりそうですよね。

『スッキリ領域』と『モヤモヤ領域』

上の図にあるように、臨床には、

『スッキリ領域』『モヤモヤ領域』

が存在します。

『スッキリ領域』は、

  • 医師は禁煙した方がいい
  • 安静度を守らない患者には指導するべきである
  • 人工関節置換術後患者の後療法


など、

どう行動するべきか明確な領域のことです。

反対に、
『モヤモヤ領域』とは、

  • 患者さんからお菓子のお礼をもらってしまった
  • 退院支援時に患者と家族が対立、しっかり解決できないまま、そのまま退院させてしまった
  • 独居の大腿骨頚部骨折患者で最適な方針がわからなくなってしまった


など、

どう行動するべきか議論が生じやすい領域です。



SEA導入を検討するのは、『モヤモヤ領域』であり、医療者の内省と深く関わってきます。

SEAと内省(リフレクション)

人は学習する上で、ただ経験するだけではなく、その経験全体を振り返り、自己の行動、思考を言語化し、その時の判断について再度考え(reflect)その意味づけをすることで、自己の学びとなる

 (Dewey, 1938)

教師や看護師のような複雑で、不確定な状況の中で実践を展開する専門家を「Reflective Practitioner(省察的実践家」と呼び、専門職教育について、専門的な知識、技術の習得だけでなく、専門家として多様で複雑な変化の著しい現場で経験し、実践する中で、あるいは実践の後で、その経験を振り返って考え、その課題を解決していく姿である

 (Donald, 1983)

SEAとは内省(リフレクション)でもあり、

臨床での出来事を言語化し振り返って解決に導いていくプロセス

無意識のうちに医療者が行っている判断や思考を、チーム全体で共有していく営みとも言えるでしょう。

学習者だけではなく、参加者みんながリフレクションできる時間になる。

今後も臨床を続けるうえで、かけがえのない時間です。

看護実践とリフレクションの循環

日本の看護教育では、2001年に田村らによって紹介されました。

現在では、リフレクションは、看護基礎教育だけでなく、臨床現場の継続教育、看護管理領域にまで活用の場が広がっています。

私の臨床現場においても、病棟掲示板にはリフレクションについての掲示物が多々見られます。

実践しながら、考察して、今後の看護実践につなげていく。

その流れを止めることなく循環させることが重要と考えられています。

※看護実践におけるエンパワーメントとは、患者さんや看護師自身が、自らの力や可能性を最大限に発揮し、主体的に意思決定し行動できるよう支援することを指します。これは、従来の医療者主導のアプローチから、患者さんとの協働による支援への転換を促す重要な概念です。

理学療法や作業療法実践においてのSEA

私の知る限りでは、国内において理学療法や作業療法実践に関するSEAについては、まだ十分にされていないようです。

一方で、それらのセラピストは医療者の中でも生活者としての視点が必要になってくるため、モヤモヤ領域を抱えることが多いことが予想されます。

おそらく、非公式のSEAがされているのではないかと感じています。

次回はその点について考えていきたいと思います。

まとめ

臨床には、医学的な正解が比較的明確な「スッキリ領域」と、
どう判断すべきか一義的な答えがなく、医療者の内省を必要とする「モヤモヤ領域」が存在します。

日常の症例検討やカンファレンスでは、前者については十分に議論される一方で、
後者に含まれる感情や迷い、葛藤については、立ち止まって振り返る機会が多いとは言えません。

Significant Event Analysis(SEA)は、
そうした「モヤモヤ領域」に焦点を当て、
医療者が自らの思考や感情を言語化し、他者と共有しながら学びへと転換していくためのものです。

SEAは単なる振り返りではなく、
Dewey や Schön が示したような内省(リフレクション)に基づく専門職の学習でもあります。
安心して語れる雰囲気の中で行われるSEAは、
参加者一人ひとりの学びであると同時に、チーム全体の成熟にもつながります。

日本の看護教育では、すでにリフレクションが実践と教育を循環させる重要な概念として定着しつつあります。

一方で、理学療法や作業療法といったリハビリテーション専門職においては、
SEAという形で体系的に語られる機会は、まだ多くないのが現状です。

しかし、生活者の視点に深く関わるセラピストこそ、
日々多くの「モヤモヤ領域」を抱えながら臨床を行っているとも言えます。
実際には、非公式な形でのSEAが、あちこちで行われているのかもしれません。

次回は、そうした「非公式なSEA」に目を向けながら、
理学療法・作業療法の実践におけるSEAの可能性について考えていきたいと思います。

本日もお読みいただきありがとうございました。

【参考文献】

  1. 大西弘高ら:Significant Event Analysis: 医師のプロフェッショナリズム教育の一手法.家庭医療,14(1);4-12,2008.
  2. 田村由美:リフレクションとは何か―その基本的概念と看護・看護研究における意義.看護研究,41(3);171-181,2008.
  3. 鈴木 康美.看護におけるリフレクション.ナース専科.https://knowledge.nurse-senka.jp/234449/ ,(参照 2025年12月22日).

コメント