出来事から専門職性はどう育まれるのか

内省・関わり
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臨床の中で起きた出来事を感情を含めて振り返ることはありますか?

重大な事例・症例に関わった医療者(特に医師)が自ら、あるいは同僚や医療チームを巻き込んで詳細に、かつ系統的に省察することで、今後の改善につなげていくための手法SEA(Significant Event Analysis)といいます。

この手法は医療者の内省であり、印象に残る出来事について、
何が起きたのか/なぜそうなったのか/自分はどう感じ、どう考えたのか
を整理することにあります。

SEAを導入することで、プロフェッショナリズム教育、あるいはストレスマネジメント等において有効であるとされています。

一方でSEAの手法を系統立てて、実践している施設は少ないと思います。

おそらく、制度化・教育化はされていないが、臨床現場の中で自然に行われている振り返りがあるのではないのでしょうか?

これを「非公式なSEA」と呼ぶことにします。

印象に残った出来事

皆さんも今までの臨床に中で、
いくつか印象に残っている出来事があると思います。

そのとき、誰にその話を聞いてもらったでしょうか?

その出来事の中には、

  • 技術や知識の不足では説明できない戸惑い
  • 「うまくやれなかった」だけではない感情
  • 専門職としてアイデンティティが脅かされた出来事

このような出来事が含まれていると思います。

残念ながら、このような出来事を振り返るSEAはほとんど導入されていません。
おそらく、信頼できる方に話を聞いてもらっても、もやもやを完全に無くすことはできなかったのではないでしょうか?

なぜならば、その出来事と詳細は違っていたとしても、それぞれのセラピストが同様のもやもやを抱え続けているように思うからです。

非公式なSEAとは

以前、私のもやもやについて投稿しました。
私は、このもやもやを信頼できるセラピストに聞いてもらいました。

聞いてもらうことで、日々の自分の臨床を内省(一種の現象学的還元)することができ、
自分の理学療法士としてのプロフェッショナルの形成に繋がっていると思います。

私の場合は、ナラティブ研究会の中で、SEAに似た形をとってるがゆえに、
もやもやを抱えることに抵抗がなかったかもしれませんが、
皆さんも臨床の中で、

  • ふと一人で振り返って考えてみたこと
  • 周りのスタッフに話してみたこと
  • 答えに近づくために人文学の本を読んでみたこと

このような「非公式なSEA」が存在しているのではないでしょうか?

そしてそれは、
確実に、臨床家としての態度や関わり方を変えているのではないでしょうか?

非公式・公式に関わらずSEAができる雰囲気づくり

系統的なSEAができるできないに関わらず、
日常のもやもやを打ち明けることができる雰囲気づくりは大切だと思います。

医療の現場にいると、科学的でないものは、
「胡散臭いもの」と思われてしまう傾向
があります。

これは医療者の教育の過程で、規範として植え付けてきた結果です。
決して、それが悪いことではなく、
ときに専門職性を揺るがす原因の一つとなってしまいます。

医療施設の中では医療者ですが、
一歩外に出れば、生活者として日々を送っています。

医療者のあたりまえが、
もやもやの原因になりうることを、
自覚したうえで、一人で抱え込まずに、
語ることができる雰囲気づくりが、臨床にも必要だと思います。

まとめ

SEA(Significant Event Analysis)は、重大な事例を系統的に省察し、改善や学びにつなげるための有効な手法として知られていますが、実際の臨床現場では制度的・教育的に十分導入されているとは言い難いのが現状です。

一方で、制度化されていなくとも、医療者は日々の臨床の中で、印象に残った出来事を振り返り、誰かに話したり、一人で考え続けたり、本を通して理解を試みたりしています。こうした営みは、「非公式なSEA」と呼びうるもの(筆者の造語)であり、技術や知識だけでは説明できない戸惑いや、専門職としてのアイデンティティが揺らぐ経験を引き受ける重要なプロセスとなっています。

医療の現場では、科学的でないものや言語化しにくい感情が、しばしば軽視されがちです。これは医療者教育の中で培われてきた規範でもあり、必ずしも否定されるべきものではありません。しかし、その規範が強く働きすぎると、もやもやを語ること自体が困難になり、結果として専門職性を揺るがす要因にもなり得ます。

医療者もまた、職場を離れれば一人の生活者です。医療者としての「あたりまえ」が、臨床で生じる違和感やもやもやの背景にあることを自覚し、それを一人で抱え込まずに語ることができる雰囲気をつくること――公式・非公式を問わず、SEAが成り立つ土壌を育むことは、臨床の質だけでなく、専門職としての在り方そのものを支える基盤になると考えられます。

【参考文献】

  1. 大西弘高ら:Significant Event Analysis: 医師のプロフェッショナリズム教育の一手法.家庭医療,14(1);4-12,2008.
  2. 宮道亮輔ら:震災支援者のストレスマネージメントにおけるSignificant Event Analysisの有用性について.日救急医会誌,24;321−328,2013.

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