こんにちは。
今日は1冊の本を紹介したいと思います。
本のタイトルは『ダイエット幻想ー痩せること、愛されること』
結論から言うと、
人は”自分らしさ”や”個性”を大切にしていますが、そのほとんどは、他者との比較によって成り立っていると言うことです。つまり幻想です。私たちに必要なのは、現代社会が押し付ける”あたりまえ”からいったん距離をおくことです。
この本のすごいところは、それを事例を通して、文献的根拠を踏まえて解説してくれています。
著者は、磯野真穂さんで、文化人類学・医療人類学の研究者です。
磯野真穂さんの論文や著書の数々。
例えば、
磯野真穂,上田みどり(2018)『脳卒中のリスクを伝える・脳卒中のリスクと暮らす–心房細動に対する抗血栓療法の現場での医師と患者のリスクのナラティブ』. Contact zone, 10: 118-142.
宮野真生子,磯野真穂 著(2019)『急に具合が悪くなる』, 晶文社.
を読んで、強く共感を感じています。
ぜひ、皆さんも読んでみてください。
特に、『急に具合が悪くなる』は2026年に映画化が決定されているようです。
さて、本日紹介する『ダイエット幻想』についてナラティブを踏まえて解説します。
承認欲求との付き合い方
承認欲求とは、「他者から認められたい」「自分は価値のある存在だと評価されたい」という、誰もが持つ基本的な心理的欲求です。
この欲求こそが、他者との比較をもたらし、人生を生きづらくする可能性があります。
そして、この承認欲求は、自意識過剰と言われて、否定的に思われる一面を持っています。
一方、社会は、「自分らしさ」や「個性」を重視しています。
他人は関係なく、オンリーワンの自分をしっかり持って、一歩一歩進み続けなさいというメッセージです。
しかし、このことが、承認の問題を複雑にしていると考察しています。
結局のところ、その歩みは、
周りと違う「わたし」
かけがえのない「わたし」を見つけようとすることになってしまっています。
「自分らしさ」や「個性」の追求は、無限比較に陥って、当初の目的とは真逆の結果になってしまっています。
結局、自分らしさを出すためには、周りを見る必要があり、周りから見た自分。この比較が、ずっとずっと続いてしまうということです。
本書では、これらの社会的な問題について、ダイエットを例に、わかりやすく解説してくださっています。
患者さんの価値観(自分らしさや個性)を大切にするとは?
これまでの投稿では、患者さんの価値観(自分らしさや個性)を大切にしなければならないという趣旨の内容を述べてきたと思います。
それでは、患者さんの価値観とはどういうことでしょうか?
磯野さんは、本の中で、そのヒントになる言葉を書いてくれています。
点と点を結んで線にする
このことは、実は点ごとに他者と比較している可能性があるということです。
医療においては、平均値や中央値という点と患者さんの身体機能の点を比較することが多々あります。そして、定期的に新たな点を刻み、その点と点をつなげて、線にして、効果を判定したり、予後を予測したりします。
医療においては、この視点が重要ですが、
磯野さんが生き方や価値観を大切にするうえで重要だと言っていることは、
ラインを描くこと
であると言っています。点を使った周囲との比較から距離を取ることです。
また、磯野さんは、文化人類学者のティム・インゴルドを引用して、このラインを一緒に描いてくれる、「踏み跡を刻む関係(一人では描けなかったラインを、共に描ける関係)」となる他者に出会うことだと言っています。
“自分らしさ幻想”に陥らないために
自分らしさを探して、気付かない間に他者と比べ続けているという”自分らしさ幻想”に陥らないためには、
やはり、”語り”を注意深く聞く必要があります。
(以前の投稿で、『”語り”とは何か?』について考えました。語りについて、解説しております)
病い(illness)の語りを真正面から聞くことは、もしかすると気持ち的にしんどくなってしまうかもしれません。
そんな時は、あなたは他者であり、医療者であり、語りを整理する役目であることを、一歩引いて関わろうとすることが大切なのではと私は思っております。
そして、患者さんやその家族の方々も、他者と比較して、しんどくならないように、医療者と共に”自分は何のために良くなりたいのか”というラインを描きながら、医療と向き合ってくれたらいいのかなと思います。
まとめ
私たちが“自分らしさ”や“個性”だと思っているものの多くは、実は他者との比較の中でつくられた「点」の集合にすぎません。
磯野真穂さんの『ダイエット幻想』は、その構造を丁寧に示しながら、現代社会が押しつける“あたりまえ”から距離をとる重要性を教えてくれます。
医療の現場に例えると、
身体機能等の「点」を比較し、「線」として評価することは不可欠ですが、患者さんの価値観においては、重要なのは、点と線をいったん脇に置いて、ラインを意識することです。
患者さんがどのようなライン(生き方)を描こうとしているのかを、語りを通して理解しようとする姿勢です。
この姿勢が、
“自分らしさ幻想”に陥らず、患者さんの価値観を大切にするためのひとつの視点になり得るのではないかと感じています。
本稿の内容は、あくまで私個人の見解ではありますが、
患者さんの価値観を大切にしながら医療に向き合う際の、ひとつの視点として受け取っていただければ幸いです。
お読みいただき、ありがとうございました。
【参考文献】
磯野真穂 著(2019)『ダイエット幻想ー痩せること、愛されること』,ちくまプリマー新書.
T.A



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