当ブログのカテゴリーの一つにもなっている医療人類学についてまとめてみます。
私たちは、病気や不調をどのように理解し、誰を頼り、どのように対処していくのでしょうか。
その答えは、医学的な診断だけでなく、その人が生きてきた文化や社会、価値観と深く結びついています。医学的な診断は同じであっても、人によって受ける影響や生じる変化はさまざまです。
医療人類学(medical anthropology)は、人々が病いや苦悩をどのように説明し、語り、意味づけながら生きているのかを研究する学問です。
治療の選択や支援のあり方を、生活者の視点から捉え直そうとする試みでもあります。
医療人類学とは?
医療人類学は、異なる文化や社会集団に属する人々が、心身の不調の原因をどのように説明し、信頼できる治療のタイプをどのように選び、実際に病気になったときに誰を頼っていくか、などを研究する学問である。
また、健康や病気に関する信念や実践が、人体の生物・心理・社会的な変化とどのように関連するかを研究する学問でもある。
さらに、医療人類学は、人々が苦悩をどのように語り、どのように対処していくのかを学ぶ学問である。セシル・G・ヘルマン 著(2018)『ヘルマン医療人類学』,辻内琢也 監訳,金剛出版.
医療人類学は、疾患を病いとして捉え文化や社会的な視点から理解しようとします。
疾患と病いについてはこちらの記事でまとめています。
『”病い”と”疾患”』
『”病い”と”疾患”、その先へ』
人類学とは?
医療人類学を学ぶためには、人類学について知っておく必要があります。
人類学(anthropology)の語源は、ギリシャ語の「anthropos(人間)」と「-logy(学問・研究)」を組み合わせたもので、「人間についての学問」を意味します。
そして、「人文科学のなかで最も科学的であり、科学のなかで最も人間である」といわれてきました。
次に、人類学は、「自然人類学」と「社会・文化人類学」に分けられます。
自然人類学(physical anthropology)は、ヒトとしての人類の進化を研究し、人間集団の多様性の源を明らかにする学問です。
つまり、人のからだの進化や道具や衣服といった物質的文化も研究し、人間の多様性がどのように生まれたのかを探る学問です。
社会・文化人類学(social・cultural anthropology)は、現代の人間社会と文化システムを比較研究するものです。
英国では、社会人類学が主流で、人間の生活における社会的側面を重視します。人間は社会的動物であり、自らを統制し永続させるために集団を作るものであるという考え方です。
米国では、文化人類学が主流で、文化を構成する象徴・概念・価値体系を重視します。
実際のところ、社会と文化は切り離して考えられるものではありません。
社会・文化人類学では、社会と文化の両方の視点から人間の生活を理解しようとします。
医療人類学は社会・文化人類学の一分野
医療人類学は社会・文化人類学の一分野になります。
一方で、健康と疾病に関して広い範囲の生物学的現象と関連しているため、医学や他の自然科学の中に深く根をおろしています。
医療人類学は人文社会科学と自然科学の二つの学問分野を横断するものといっていいと思います。
フォスターとアンダーソンの定義によれば
「医療人類学とは、人間の歴史を通じて相互に作用してきた、人間の行動や健康や疾病における生物学的側面と社会文化的側面の両方を探求する、生物文化的な学問分野である」とされている。
医療人類学とナラティブ
では、医療人類学とナラティブはどのようにつながるのでしょうか?
医療人類学は、人々が病いや苦悩をどのように理解し、意味づけ、対処しているのかを、文化や社会の文脈から明らかにしようとします。
そして、一人の患者さんを生活者として理解する際にはナラティブ(語り)に耳を傾ける必要があります。
患者が語る不安、希望、つらさ、あるいは怒り。
それらは単なる感情表出ではなく、その人が生きてきた社会や文化、関係性の中で病いとして形づけられます。
言い換えれば、ナラティブは、医療人類学の視点を、臨床の現場で具体的に引き受けるものです。
まとめ
医療人類学は、人々が病いや苦悩をどのように説明し、語り、意味づけながら生きているのかを研究する学問です。
治療の選択や支援のあり方を、生活者の視点から捉え直そうとする試みでもあります。
人類学は、大きく「自然人類学」と「社会・文化人類学」に分類されます。
医療人類学は、人間の日常的な行動や社会の様子を観察することで、その地域に根づく文化や社会などのしくみを研究するという「社会・文化人類学」の一分野に位置します。
医療人類学とナラティブの関係性は強く、臨床の現場において、医療人類学の視点を持つ際には、ナラティブが重要になります。
また、医療人類学を学ぶことで、臨床での対話をより広い視点で考察することができます。
そうすることで、患者さんを一人の生活者として理解することにつながります。
当ブログでは、医療人類学の視点を背景にしながら、臨床の場で出会った語りや違和感、もやもやを大切に扱っていきます。
【参考文献】
- セシル・G・ヘルマン 著(2018)『ヘルマン医療人類学』,辻内琢也 監訳,金剛出版.



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