患者の病いに対する行動に影響を与える3つのセクター
①民間セクター ②専門職セクター ③民族セクター
アーサー・クラインマン著『病いの語り-慢性の病いをめぐる臨床人類学』
皆さんは、身体に不具合が出たとき、まずどのような行動をとりますか?
もし朝起きて、腰が痛いとき、どうしますか?すぐに病院に行きますか?
きっと、そんなことはないですよね?まず、家族や友人に話しませんか?
「朝から腰がいたんよね。」と妻に言うと、「昨日仕事で動きすぎたんじゃない?帰ってきたとき、あなた疲れてるように見えたよ。」と返ってくると、その痛みは昨日仕事で動きすぎたことによる影響であり、特に心配する必要はないと思うかもしれません。
もしくは、「あなたが腰が痛いなんて言うのは珍しいね。この前、同世代の近所の人が腰が痛くて病院に行ったら、お医者さんから、腰椎変性すべり症と言われて、手術することになったらしいよ。」と言われて、心配になり病院を受診することになるかもしれません。
そして、いざ病院に行ってはみたものの、特に原因がわからず、「おそらく急性腰痛症でしょう。仕事も無理のない範囲でしていいですよ。」と説明を受けて、納得する人もいれば、納得しない人もいて、その後、何なのかわからない腰痛を治すために、周囲に相談して、地元でも有名な鍼灸院に行って治療を受けるかもしれません。
人々は何か身体に不具合が生じたとき、その理由は何かを探るために様々な行動をとります。その際の3つのセクターが、
① 民間セクター(Popular Sector)
ーこの中では、「朝から腰が痛いんよね」と妻に話す→ 奥さんの反応から「原因は仕事の疲れかも」と判断する→ 受診しない理由にもなるし、受診する理由にもなるー
アーサークラインマンは、これがまさに「患者の最初の医療行動を決める最大の要因」と論じています。
② 専門職セクター(Professional Sector)
ー病院に受診して、原因が特定されないー
腰の痛みには何か理由があるはずだと思い、専門的な医療機関で治療を受けるべきという社会の中で確立された地位を持っているセクター
③ 民族セクター(Folk Sector)
ー鍼灸院に行って治療を受けるー
ここは多くの患者が「治らないときの次の選択肢」として行動します。
患者がアーサー・クラインマンの3つのセクター(民間、専門職、民俗)間を移動する典型的な経路は、まず身近な民間セクターから始まり、必要に応じて専門職セクターや民俗セクターへと移動すると言われています。
ただの腰痛だけでも、周囲の人や病院、あるいは民族療法や代替医療を利用し、腰が痛いという症状を自分の中で腑に落ちたものにするために行動することがあるのです。
患者は病いに対して自分なりの原因を突き止めようとします。
このことを、アーサー・クラインマンは『説明モデル(Explanatory Models of illness)』と述べています。次回は、この『説明モデル』について説明します。
アーサー・クラインマンの『病いの語り』はナラティブを学ぶうえで欠かせない名著です。医療者のみなさんは、ぜひ手にとってみてください
T.A



コメント