質的研究の理論的飽和とは?

質的研究

質的研究は理論的飽和となるまでインタビューやアンケートを続ける。
質的研究に関して「理論的飽和」という言葉を耳にすることがあると思います。

今日は、この「理論的飽和」について、簡単に解説します。

質的研究と量的研究の大きな違いの一つがサンプル数の考え方です。

量的研究では、
研究デザイン(RCTやコホート、横断研究など)に応じて、事前にサンプル数を固定することが多いです。
サンプル数が少ないと、
第二種の過誤と言われる「実際には差があるのにそれを検出できない」という結果になってしまう場合があります。反対に、サンプル数が多くなりすぎると、「臨床的に意味のないような極めて小さな差であっても「統計的に有意」と判定されてしまう」可能性があります。

そのため、あらかじめ適切なサンプル数を踏まえて、
サンプリング(研究で調べたい集団(母集団)の一部を、一定の基準・手続きで選び出して「対象者(サンプル)」にすること)を行います。

一方、質的研究では、
特にグラウンデッド・セオリーなどで使用しますが「理論的飽和」といって、
追加のデータ収集・分析を行っても、新たな理論的カテゴリー、概念、または関連性が発見されなくなった状態。この段階に達したとき、調査のサンプリングを終了するという判断基準を使用します。

例えば、理学療法士のやりがいについて調査した際、

  • 患者さんと長時間関わることができる
  • 感謝される
  • 多職種から頼りにされる
  • 多くの知識を必要とする
    ※本来はもっと豊かなデータになります。

多くのデータが収集されると思います。
そして、データ収集と分析を繰り返し、カテゴリー同士の関連付けが十分に説明できるようになることを目指します。
調査は、研究の妥当性を高め、理論の包括性を確保するために、これ以上新しい情報が得られなくなるまで継続します。

つまり、

  • 新しい対象者や新しい事例を足しても 新しいコード/カテゴリー/関係性が増えなくなる
  • 既存カテゴリーの 条件・幅・例外 が十分に埋まってくる
  • 理論(説明の骨格的な部分)が、対象者間で 破綻せずに耐える ようになる 

このように、質的研究においては、
サンプル数は、事前には決まらず、研究を続けていく中で決定されることになります。

サンプリング方法も大きく異なります。
量的研究は、バイアスを避けるため母集団に一般化されるような方法を選択します。
無作為抽出(random sampling)、多施設研究などが望まれます。

質的研究は、
一般化よりも 文脈の違い・概念を豊かに確かにすることを目的としています。
そのため、サンプリング方法はしばしば作為的です。

例でいうと、

  • スノーボール・サンプリング:紹介で参加者が増えます(コミュニティ研究など)
  • 目的抽出(purposive sampling):研究目的に照らして「この人の経験が重要」と選びます
  • 理論的サンプリング(theoretical sampling):分析途中で「このカテゴリーを厚くするには次はどんな人が必要か」を考えて追加します。

このように、質的研究と量的研究では目的や考え方が大きく異なります。

ただ知っておいてほしいことがあります。

私自身も量的研究も質的研究も行いますが、
質的研究を行ううえで、1点注意していること

それは、
「方法論からスタートしないこと」です。
質的研究で最も重要なことは、研究者が現象のどこに着目し、それをどのような角度から分析したかであり、どの方法を使ったかではありません。

方法ばかりに着目する研究者・指導者は、質的研究の本質を外していると言えます。

今回の記事では、質的研究について理論的飽和という観点から大まかに説明しました。

なぜ、質的研究は方法論からスタートさせるべきではないのか。
質的研究は調査現場から方法が立ち上がってくることも多くあります。
そして、目的は、データを一般化するのではなく、
新たなものの見方を発見しようとすることでもあります。

そして、本ブログの中軸であるナラティブと質的研究は多くの接点があります。
今後も質的研究の面白さを合わせてお伝えしていけたらと思います。

【参考文献】

  1. 新谷歩 著(2016)『みんなの医療統計 12日間で基礎理論とEZRを完全マスター』,講談社.
  2. Lin Richards, Janice M. Morse 著(2008)『はじめて学ぶ 質的研究』,小林奈美 監訳,医歯薬出版株式会社.
  3. 磯野真穂:臨床家のための質的研究(前編):「方法」に走る前に身につけたい3つの構え.医学教育.2016;47(6):353-361.

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