質的研究を行ったことがある方は、
M-GTA(Modified Grounded Theory Approach:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)
をお聞きしたことがあると思います。
今回参考にさせていただいたのは、
遠見書房『N:ナラティヴとケア 第13号 質的研究のリアル――ナラティヴの境界を探る』に収められている、木下康仁氏の「M-GTAとナラティヴ」です。
質的研究の方法として有名なM-GTAと、ナラティブとの接点を考えるうえで、示唆の多い論考でした。
ただ、M-GTAとナラティブについて議論するのは、
流石にハードルが高すぎます💦
そのため、今回はM-GTAについて私なりにまとめさせていただいたらと思います。
グラウンデッド・セオリー(GTA)とは?
M-GTAは(Modified:修正版)とある通り、
GTA(Grounded Theory Approach:グラウンデッド・セオリー)
を抜本的に再編成しています。
GTAは、
1960年代にアメリカのグレーザー(Glaser)とストラウス(Strauss)によって提唱された、データに根ざした(grounded)理論生成を目指す質的研究法です。
- 理論を先に想定して検証するのではなく、インタビューデータやフィールドノート(調査現場や野外で観察内容、体験、気づきを即時に記録するノート)からボトムアップ形式で理論を構築します。インタビューデータは細かな文節でコード化します。そのうえで、理論を構築します。
- 分析を進める中で新しい知見が得られなくなる状態(理論的飽和)を目指して、データの収集と分析を繰り返します。
- 常にデータ同士、あるいはデータと概念を比較し続けることで、概念の共通性や差異を明確にしていきます。
GTAは、もともと看護を含む実践領域のデータに根ざしながら、独自の理論生成をめざす質的研究法として、日本をはじめ広く関心を集めてきました。🌍️
一方で、GTAを以下に実践に応用するのか?あるいは、社会構成主義に対応できていないのでは?(その後、対応させようと改変されたことが反発を招いた)というような否定的な議論も起きてきました。
私自身もGTAを使用したことはありませんが、文節を細かく区切るという点で、抵抗があることは確かです。
M-GTAとは?

そのような背景を元に、社会学者の木下康仁氏により再編成されたM-GTA📝
木下氏はGTAの問題点を明らかにしたうえで、
M−GTAを開発され、実践における理論を強く訴えていました。
M-GTAは質的研究法のひとつであるが、とくに実践的質的研究法と規定している。これには2つの理由があり、1つは単に質的データの分析方法としてではなく日常的経験を理論(説明モデル)化することを目的とすること、もう1点は現場への応用によりその理論の実践をめざすためである。日常的経験の理論化と理論の実践を連続的関係におき、理論の実践からさらに研究につながるという螺旋的循環に位置づけられる。
木下康仁.M-GTAとナラティヴ.N:ナラティヴとケア.2022;13:pp17.
M-GTAでは、理論をつくることと現場で生かすことは連続しています。
研究で得た理論を実践に役立て、実践で得た気づきを再び研究に返していく。
このように、研究と実践が循環しながら深まっていく点が特徴です。
M-GTAは、
- 木下氏は、データをいきなり細かく分節化することは、文脈を見失う可能性があるため勧めていません。
- M-GTAでは、一行ずつのコーディングを行う代わりに、「分析ワークシート」を使用します,。これは、データの文脈を保持しながら、特定の「分析焦点者」の語りの意味内容を深く解釈し、概念を生成していく手法です。そして、その「分析ワークシート」には「理論的メモ」の欄があり、概念生成の根拠となった理由や関連する内容を記載します。
- データをバラバラに切り刻むのではなく、全体の文脈やリアリティを重視して分析を進めます。
私が思う重要な点は、「分析焦点者」を規定することで、理論を形成する際の広がりを抑えて考えることができること、文脈を大切にしており、より実践に応用できる(あるあると思える)分析方法であることが挙げられます。
出典先のなかで、木下氏も述べられていますが、研究者の感情や想いが影響してしまう可能性がある(完全には排除できない)ため、分析の際は注意が必要です。
このことに関しては、
(研究者が)恣意的にならず論理的に行われる必要があるのだが、その適切さ、確からしさの判断には「わかった、納得できる」といった自身の感覚的な受け止め方が重要である
(中略)
通常、感覚的要素は論理的な作業には不純物、雑音のような異質で排除されるべきものと考えられがちだが、質的データの分析では逆に分析の中に取り組むという発想である。木下康仁.M-GTAとナラティヴ.N:ナラティヴとケア.2022;13:pp26.
研究者の立場や前提は、分析時のみならずに、インタビュー時やフィールドワーク時にも影響します。
これらを完全に排除するのは困難であり、その立場や文脈を含めたうえでの分析が大切になってきます。
まとめ
M-GTAは、データを細かく分解するのではなく、文脈を保ちながら意味を捉え、日常的経験を理論化していく質的研究法です。
さらに、その理論を現場で生かし、そこで得た気づきを再び研究へ返していくという、研究と実践の循環を重視している点に特徴があります。
ナラティブに関心をもつ立場からみると、
M-GTAは、語りの流れや背景を大切にしながら分析を進めようとする方法として理解できます。
その一方で、研究者自身の立場や感覚も分析に関わるため、
方法の形式だけではなく、
自分がどのようにデータを分析しているのかを意識することも重要です。
今回は、M-GTAに関するごく基本的な概要をまとめるにとどまりました。
実際には、概念生成や分析ワークシートの使い方、理論的メモの書き方など、さらに丁寧に考えていく必要があります。
ご興味のある方は、ぜひ質的研究の勉強会にもご参加ください。
みんなで悩み、議論を重ねながら、研究を少しずつ深めていければと思います。
【参考文献】
- 木下康仁.M-GTAとナラティヴ.N:ナラティヴとケア.2022;13:17-30.
- 木下康仁.質的研究法としてのグラウンデッド・セオリー・アプローチ―その特性と分析技法―.コミュニティ心理学研究.2001;5(1):49-69.
- 木下康仁.定本 M-GTA―実践の理論化をめざす質的研究方法論.東京:医学書院,2020.


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