信頼関係を「築く」とは、どういうことでしょうか。理学療法士として経験を重ねながら、改めて考えさせられることがあります。
患者さんとの信頼関係がリハビリテーションの質に影響することは、多くのセラピストが感覚として知っています。でも、それを「行為のプロセス」として明らかにしようとした研究はほとんどありませんでした。
今回紹介したいのは、篠原らによる「リハビリテーションセラピストが対象者と信頼関係を形成する行為のプロセスに関する質的研究」(2021)です。
研究の概要
この研究は、PT・OT・ST(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)合計12名にインタビューを行い、M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)という質的研究手法で分析したものです。M-GTAとは、インタビューデータから概念を生成し、その関係性を理論として構造化する手法です。
分析の結果、信頼関係を形成する行為に関する概念が69個、カテゴリが17個、大カテゴリが6個生成されました。
信頼関係の形成を導く「10の基本的姿勢」
研究で明らかになったプロセスの核心のひとつが、10の基本的姿勢です。これらは3つのまとまりとして整理されています。
ひとつ目は、「他者に関心を持ち関係形成に臨む姿勢」です。これは〔関係重視の姿勢〕〔無知の姿勢〕〔興味を持つ姿勢〕から成ります。特に「無知の姿勢」とは、「あなたのことは知らないので、教えてください」という立場で患者さんに臨むこと——専門家であっても、その人の生活や価値観については知らない者として接することを指します。
ふたつ目は、「対等に接する姿勢」です。〔包括的かつ非審判的な姿勢〕〔平等な姿勢〕〔責任を持つ姿勢〕で構成されます。治療や予防に対して、セラピストだけでなく患者さんや家族にも責任を持ってもらうという「責任を持つ姿勢」は、一方的なケアではなく協働という視点を示しています。
みっつ目は、「関係を強化するための姿勢」です。〔敬重かつ寛容な姿勢〕〔対象者中心の姿勢〕〔情熱的な姿勢〕〔模索と工夫と吟味の姿勢〕から成ります。「模索と工夫と吟味の姿勢」とは、関わり方を画一的にせず、常に試行錯誤し続けることを意味します。
内省——「できたこと・できなかったこと」を問い直す
この研究で特に印象に残るのが、内省という要素です。
研究では「内省」を、リハビリテーション全過程にわたって行われるものとして位置づけており、二つの側面に分けて示しています。「できたことの内省」は、できたことを洞察し、その手段を理解すること。「できなかったことの内省」は、できなかったことを洞察し、反省したり、他者の助言や指導を受けたりすることです。
ここで私なりの解釈を加えると、この内省は「人間としての自己反省」とは少し異なるものだと感じています。
人間としての内省であれば、「もっと優しくすれば良かった」「気持ちが足りなかった」という方向になりがちです。でも、この研究が示す内省は、あくまでもセラピストという専門職としての内省です。「あの評価のタイミングは適切だったか」「目標設定において患者さんとの合意は十分だったか」「介入の段階づけに根拠があったか」——こうした問い直しは、感情的な反省ではなく、臨床の行為そのものを俯瞰して検討する行為です。
おわりに
この研究を読んで感じるのは、信頼関係を築く資質とは、性格などの元々備わっているものではないということです。
10の基本的姿勢も、コミュニケーションへの配慮も、そして内省も——いずれも、臨床経験を重ねながら意識的に育てていくものだと思います。とりわけ内省は、専門職としての自分の行為を繰り返し問い直すことで、少しずつ精度が上がっていくのではないでしょうか。
「資質」という言葉は、ともすると先天的なものとして語られがちです。でもこの研究は、信頼関係を形成する行為が具体的な概念として記述できることを示しています。つまり、学ぶことができ、鍛えることができるものだと感じました。
参考文献
- 篠原和也・鹿田将隆・野藤弘幸(2021).「リハビリテーションセラピストが対象者と信頼関係を形成する行為のプロセスに関する質的研究」. 日本保健科学学会誌, 24(1), 48-57.



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