研究に必要な「運・鈍・根」——ネガティブ・ケイパビリティと研究

研究に必要な「運・鈍・根」——ネガティブ・ケイパビリティと研究 読書メモ

研究に必要なものとして、「運・鈍・根(うん・どん・こん)」という言葉があります。

帚木蓬生『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』で紹介されているもので、それぞれ次のような意味です(帚木, 2017, p.185-201)。

——運が舞い降りてくるためには、辛抱強く待つ必要がある
——浅薄な知識で表面的な解決を図るべきではない
——根気のこと。結果が出ない実験、出口が見えない研究をやり続ける根気に欠けていれば、ゴールに近づくことは不可能

そして帚木は、この「運・鈍・根」こそがネガティブ・ケイパビリティの別の表現であると述べています(帚木, 2017)。読んでいて、はっとしました。


学会にいると、逆のものが大切に見える

医療の学会に出ていると、ポジティブ・ケイパビリティ——直面した問題や課題に対して、素早く的確に答えを出し、解決へと導く能力——が大切なのだと、つい思ってしまいます。

明快な結論。整った図表。有意差のついたデータ。そういうものが評価されているように見えるからです。

でも、実際に研究活動をしている方のほとんどは、知っているはずです。研究で100点満点の結果を出すことは、きわめて困難だということを。


だからこそ、研究は続いていく

100点が出ないからこそ、研究は継続されていきます。

ひとつ明らかになれば、そこからまた新しいクエスチョンが浮かび上がってくる。わかったつもりになった途端、別のわからなさが顔を出す。研究とは、そういうとても曖昧な世界です。

だとすれば、そこで求められているのは、素早く答えを出す力よりも、答えが出ないままとどまる力——ネガティブ・ケイパビリティのほうなのだと思います。

ネガティブ・ケイパビリティ——答えを急がず、患者さんの語りに耳を傾ける


実力不足だと思っていた

この本を読んで、私自身とてもホッとしました。

研究活動をしているとき、いつも感じていた違和感がありました。綺麗な結果が出ないといけない、と思い込んでいた自分です。

思うような結果が出ないのは、研究方法が甘いからだ。分析方法が間違っているからだ。単に、私の実力不足なのだ——そんなふうに考えていました。

もちろん、それらを全て否定することはできません。方法の精度を上げる努力は必要です。でも、少なからず言えることがあります。結果が出ないのは当然の過程であり、その過程に耐える能力が必要なのだ、ということです。

「運・鈍・根」という言葉は、それを別の角度から言い当てているように感じました。

綺麗な分析より、確からしさを多方面から——研究に必要な「判断」についての私見
質的研究のリサーチクエスチョンをどう立てるか——「どうしたらいいか」の前に


おわりに

医療者の皆さんに、おすすめできる本です。

臨床でも、研究でも、私たちは答えの出ない場所に立たされます。そこで踏みとどまる力に名前がついていると知るだけで、少し楽になる。そういう本だと思います。


参考文献:
帚木蓬生(2017).『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』. 朝日新聞出版.(p.185-201)

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