Popeによれば、量的研究とは「Xはどのくらい大きいか、またそれはいくつあるか」を測定するものであり、質的研究は「Xとは何か」を理解するものだといいます(沖田, 2003)。
Xが何かがわからないのに、それがいくつあるかばかり測定しても仕方がありません。何かを調査するとき、質的研究を量的研究に先行して行うべきとされるのは、このためです。
今回は、質的研究の出発点であるリサーチクエスチョンの設定について整理します。
質的研究の9つの特徴
大谷尚は、質的研究の特徴を次のように整理しています(大谷, 2017)。
- 仮説検証を目的としない
- 実験的研究状況を設定しない
- インタビューや観察から言語データを作成する
- 言語データを分析する
- データ以外に得られる資料も総合して検討する
- 研究者の主体的解釈を積極的に活用する
- 研究対象の有する具体性や個別性を通して一般性や普遍性を追究する
- 心理・社会・文化的な文脈を考慮してデータを分析する
- そうして現象に内在・潜在する意味を見い出して理論化する
質的研究の5つの手続き
質的研究の手続きは、次の段階から構成されます(大谷, 2017)。
ただし、①から⑤へと一方向にのみ進むわけではありません。その点は量的研究と全く異なる重要な点だと大谷は強調しています。
量的研究では、一般にデータ採取を完全に終えてからデータ分析を開始します。これに対して質的研究では、最初の一人のインタビューを終えたらすぐに逐語記録化して分析を始めるべきであり、最後のデータの分析時までデータ採取を継続します。データ採取の手続きとデータ分析の手続きを分けてしまうことは、初学者が犯しやすい誤りのひとつだとされています(大谷, 2017)。
「どうしたらいいか」から始めない
ここからが本題です。
大谷は、研究で得るべき知見・理論には3種類があると整理しています。
- 記述的(descriptive)知見・理論——どうなっているのか
- 予測的(predictive)知見・理論——どうなるのか
- 処方的(prescriptive)知見・理論——どうしたらいいのか
そして、こう指摘します。医療専門職は実践者であり、実践者には、このうちの処方的理論を最初から求めようとする強い傾向がある。しかし、これらすべての基本はあくまで記述的理論である、と。
優れた記述的理論が得られれば、そこから各施設や各患者さんの特性に応じて、演繹的に処方的理論を立てることが可能になる場合もあります。でも、処方的理論からは記述的理論が得られません。最初から処方的理論を得ようとすれば、きちんとした記述的理論が得られないままになり、研究対象についての深い理解や解明がなされないままになる(大谷, 2017)。
これは、臨床で働く私たちには耳の痛い指摘かもしれません。現場で困っているからこそ、「どうすれば意欲が上がるのか」「どう関わればよいのか」という答えがほしくなります。でも、そこから出発した研究は、結局なにも明らかにできないまま終わってしまう可能性があるのです。
そして同じことが、日々の臨床の関わりでも起きているように思います。
意欲が出ない患者さんを前にして、「とにかくポジティブな声かけをしてみよう」「趣味とか興味のあることを聞いて、友好な関係を築こう」——そんなふうに、実に表面的に関わり方を変えて対応してしまったことが、私にはあります。
その結果、病いに苦しむその方の本心を、結局は聞くことができていない。そう感じたことがありました。
「どうしたらいいか」から入ったために、「どうなっているのか」を聞き逃していたのだと思います。研究の話は、そのまま臨床の話でもあるのかもしれません。
今福輪太郎も、同じことを述べています。質的研究のリサーチクエスチョンを設定するときの重要な観点は、「どうすればいいか」という問題解決に向けたものではなく、「どうなっているか」という事象理解や問題探索に向けたものを意識することだ、と。
what と how から始める
では、どのような形にすればよいのでしょうか。
今福は、Willigを引きながら、リサーチクエスチョンはオープンエンデッドなものであるべきだと述べています。単純に「はい」「いいえ」で答えられるものではなく、詳細な記述を与えるような答えが必要になるものです。
そして、「何が起こったか」に留まらず、「どのようにものごとが生じたのか」を明らかにしようとすることが鍵になるとされています。what や how から始まる形が軸となり、仮説検証というよりは、現実世界の詳細な記述から仮説を生成することが主眼になります(今福, 2021)。
質的研究が向いている場面
大谷は、質的に扱うべき研究課題として、次の3つの特性を挙げています。
一つ目は、新規な事象や課題であるため、利用できる既知の研究的知見がないもの。観察やインタビューをして、そのデータを分析する必要がある場合です。
二つ目は、研究参加者自身が言語化しておらず、アンケートが不可能なもの。インタビューによって言語化を促し、その記録を質的に分析する必要がある場合です。
三つ目は、言語化はしているが、カミングアウトし難い内容。アンケートによる量的研究が実施できず、少数の研究参加者にインタビューする必要がある場合です。
リハビリテーションの現場を思い浮かべると、どれも心当たりがあるのではないでしょうか。
FINERクライテリア
なお、リサーチクエスチョンを設定する際の規準として、臨床研究で用いられるFINERクライテリアを、質的研究にも適用できるとされています(大谷, 2017/今福, 2021)。
Feasible(実施可能性がある)/Interesting(興味深い)/Novel(新規性がある)/Ethical(倫理的である)/Relevant(必要性がある)
社会科学系の研究にも適用でき、質的研究のリサーチクエスチョンの規範としても用いられ得るとされています。
おわりに
リサーチクエスチョンの設定は、質的研究の最初の手続きです。でも、ここでつまずくと、その後のすべてが変わってしまいます。
臨床で困っているからこそ、「どうしたらいいか」を知りたくなります。その気持ちは、私自身よくわかります。でも、まず「どうなっているのか」を丁寧に描くこと。その先にしか、実践に使える知見は生まれてこないのかもしれません。
Xが何かを知らないまま、Xを数えないこと。Popeの言葉は、そういうことを言っているのだと思います。
→ 新たな視点を提示する質的研究とは——サンプル数では測れない価値
→ オープンコーディングと選択的コーディングとは——GTAの分析手順を整理する
※ 本記事の内容は、その多くを下記の参考文献に負っています(臨床場面の記述と、おわりにの考察は私自身の見解です)。大谷(2017)と今福(2021)は、いずれもオープンアクセスで全文を読むことができます。質的研究に取り組まれる方は、ぜひ原典を読んでみてください。
参考文献:
沖田一彦(2003).「理学療法における質的研究の実際」.『理学療法ジャーナル』37(3), 216-224.
大谷尚(2017).「質的研究とは何か」.『薬学雑誌』137(6), 653-658. ※ J-STAGEで全文を読むことができます(オープンアクセス)
今福輪太郎(2021).「質的研究を実施するうえで知っておきたい基本理念」.『薬学教育』5(0), 97-101. ※ J-STAGEで全文を読むことができます(オープンアクセス)
Pope, C. 他(大滝純司 監訳)(2001).『質的研究実践ガイド——保健・医療サービス向上のために』. 医学書院.



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