答えが出ないまま、一緒に考える——医療者も患者さんも、わからなさを抱えている

医療者とご本人がそれぞれ「?」の吹き出しを持ち、ともに答えの出ない状態を抱えている図 患者さん・ご家族の方へ

「しばらく様子を見ましょう」

腰が痛くて病院に行き、レントゲンを撮って、そう言われたことはないでしょうか。はっきりした原因は見つからない。薬が出るか、出ないか。それで診察は終わります。

診察室を出たあと、宙ぶらりんな気持ちが残ります。痛いのは変わらないのに、何も解決していない気がする。本当にこのままでいいのだろうか、と。

この記事は、医療との関わりのなかで、何らかの不安を抱えている方に読んでいただけたらと思って書いています。私はリハビリテーションの専門職(理学療法士)で、医師ではありません。診断や治療そのものについて述べる立場にはありませんが、医療の現場で広く共有されている考え方について書いてみます。

医療者の世界で、いま言われていること

近年、医療者には「答えの出ない事態に耐える力」が必要だと言われるようになりました。ネガティブ・ケイパビリティと呼ばれる考え方です。

もともとは詩人のジョン・キーツが見出した言葉で、のちに精神科医のビオンが治療に欠かせない能力だと主張したことから、医療の世界に広まりました。

わからないまま、その状態にとどまる力。すぐに答えを出さず、持ちこたえる力のことです。

医療者は本来、問題があればすぐに対処するよう訓練されています。それが必要な場面はたくさんあります。けれど、急いで答えを出さないほうがいい場面もある——そう考えられるようになってきた、ということです。

「様子を見ましょう」は、さじを投げたのではない

「様子を見ましょう」は、分からないから放り出した言葉ではなく、いま結論を出さないほうがいい、という判断であることがあります。

体の不調には、時間が経たないと分からないものがあります。数日で治まるのか、続くのか。それによって考えることが変わる。その段階で何かに決めてしまうと、かえって遠回りになることがある。

もちろん、説明が足りないまま言われれば、突き放されたように感じます。そこは医療者の側の課題です。ただ、言葉の裏にあるのは、必ずしも無関心ではないということは、知っておいてもいいかもしれません。

待つ側にも、答えの出ない時間がある

一方で、待つ側にも同じ時間が流れています。

子どもに熱が出て、「もう一日様子を見ましょう」と言われた夜。本当に大丈夫なのか、見逃していないか。何度も熱を測って、眠れない。

腰の痛みが続いていて、動いていいのか、休んだほうがいいのか分からない。仕事は休めない。でも悪化させたくもない。

こちらのほうが、ずっとつらいと思います。医療者は時間が来れば次の患者さんのところへ行きますが、ご本人とご家族は、その時間のなかに居続けるのですから。

答えが出ないことに耐えているのは、医療者だけではありません。

どちらの考えが全て、ということではない

ここが、私の伝えたい核心になります。

医療者が考える最善と、ご本人にとっての最善は、同じとは限りません。

腰の痛みで言えば、医療者としては「無理のない範囲で動いたほうがいい」と考えていても、ご本人は「また痛くなるのが怖い」と感じている。あるいは、動けと言われても、仕事の内容からして加減のしようがない。

このとき、医療者の判断が全て正しいわけではありません。生活のことを知らないまま出した答えは、その人にとって実行できないことがあります。

同時に、ご本人の希望が全部そのまま通るわけでもありません。望むとおりにすることが、体にとってよくないこともあります。

どちらか一方が正解を持っているのではない。だから、持ち寄るしかないのだと思います。

持ち寄るために

とはいえ、限られた診察の時間で話せることは多くありません。

ひとつだけ挙げるなら、迷っていることを、迷っていると伝えていいということです。

「言われたとおりにしたいけれど、仕事があって難しい」
「様子を見ると言われたけれど、どうなったら受診すればいいのか分からない」

はっきりした結論でなくて構いません。迷いをそのまま出してもらえると、医療者の側も、何を考えればいいのかが見えてきます。

前回の記事でも書きましたが、「今いちばん気がかりなのは、このことです」という一言があるだけで、医療者の見方は変わります。

→ 医療への不安や不満は、どこから来るのか——医療者と患者さんが見ているものの違い

おわりに

答えが出ないまま進む時間は、放っておかれている時間とは限りません。

医療者の側も、わからなさを抱えたまま、その人にとって何が最善かを考え続けています。少なくとも、そういう姿勢が大切だと言われるようになってきました。

同じことを、別の場所で、両方が抱えている。そう思えたとき、その時間の感じ方は少し変わるかもしれません。

→ リハビリ中に、整体や鍼にも通っていること——言いにくいことを、言ってもいい


※ 本記事は、医療との関わりについての一般的な考え方をまとめたものです。症状が強いときや、急に変化したときは、様子を見ずに医療機関にご相談ください。ご自身の治療については、必ず主治医にご相談ください。

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